ガット張り初心者向けの、張り方解説第三弾です。
今回は「クロスストリング/横糸編」です。
横糸は、目飛ばし、位相間違いなどが起こり得るため、編んでいくこと(レーシング)自体に慣れる必要があります。
技術はおおよそ張り本数に比例しますので、多少は失敗もしながら、沢山張っていくことが一番大切です。
メインストリング:縦糸のこと
クロスストリング:横糸のこと
ショートサイド:1本張りする場合の、主にメインストリング半分を張っていくための短いサイドのストリングのこと
ロングサイド:1本張りする場合の、メインストリング半分とクロスストリングのほとんどを張っていく長いサイドのストリングのこと
クランプ:引っ張ったストリングを挟んで固定する器具のこと。爪の本数によって、3本爪クランプ、5本爪クランプなどがある。
グリッパー:ストリングを挟みこんで引っ張る部分のこと
スターティングクランプ:フレーム外でストリングを固定したり、最後の1本の長さがギリギリ足りないときにグリッパーに届かせるために使う器具
目飛ばし:横糸は、縦糸に対し上下上下と通していくが、2回以上続けて同じ側(上上or下下)を通してしまうこと。公式試合ではルール違反となるため、目飛ばしをしたストリングは使用不可。
位相間違い:特にATW(アラウンドザワールド)の際などに、横糸を分けて、離れた場所で張る場合、最終的に隣り合う横糸が同じ上下を通ってしまう「編み間違い」のこと
クロスオーバー:グロメットを通ったストリングが、フレームの外側で2本以上並走する部分で、ストリング同士がクロスして重なってしまうこと
クロスストリングを張っていく
ゴーセン張りの場合
ゴーセン張りのケースでは、ショートサイドで上の3本は張り終わって、タイオフも完了させています。
4本目から下のクロスストリング/横糸を、さあ張っていきます。
「プレレーシング」を使って効率よく編んでいく
横糸は、テンションをかけて引っ張る糸の、その次の糸を先に編み通しておきます。これを『プレレーシング』と言います。
上の写真はプレレーシングする前の段階です。プレレーシングをしてから、テンションを掛け、スターティングクランプを外します。
また、横糸を通していく際は、縦糸に対してナナメに通していきます。そうすることで、摩擦が少ないので通しやすく、ストリングを傷つけず、作業効率も上がります。
その後の横糸もすべて、1本ずつプレレーシングをしていきましょう。
プレレーシングをする理由
横糸が通しやすいため、作業効率が良い
横糸が通しやすいため、縦糸との摩擦が少なくストリング自体の負担が少なく済む
横糸の通し方の正解は!?
はっきり言ってしまうと、本人が通しやすい方法であれば何でもよく、正解が決まっている訳ではありません。
私は指先で押しながら通す方法で慣れてしまっていますが、以前有料講習でお世話になったプロストリンガーは、指先で引きながら通していました。
プロストリンガー曰く「通しやすければ何でもよし」とのことでしたので、自信を持って自分流を貫いています。
縦糸に負担を掛けない注意を
編み通した横糸を、縦糸に対して直角に引っ張ってしまうと、摩擦で縦糸のコーティングを傷つけてしまいます。
ですので、プレレーシングの場合と同様に、横糸を引っ張る場合は、必ず縦糸に対してナナメに引くことを基本としましょう。
1本ずつ緩みを取り・きれいにそろえながら張っていく
少し手間ですが、横糸にテンションをかけて引いている最中に、セッティングオールで縦糸に対して平行方向に引いて、グロメットとの摩擦、縦糸との摩擦を解放してあげる作業を入れたいです。要は、縦糸で行ったのと同じ「緩み取り」作業です。
ただ、「緩み取り」作業後に、そのまま歪んで湾曲させた状態のままクランプしてはいけません。
湾曲した状態の横糸は、テンションがしっかり掛かっていない、緩んでいる状態で、そのままクランプするとテンションロスした張り上がりになってしまいます。
テンションを掛け続けながら、オールや指を使って横糸をまっすぐな状態に整えてから、クランプするようにしましょう。
なお、緩み取り作業、まっすぐにしながら引き続けることは、当然コンスタントプルの電動か分銅マシンでしか行えません。
目飛ばしに注意!
ストリングの横糸は縦糸に対し、上下上下と交互に通していきますが、それを”上上”や”下下”と同じ側を連続して通してしまうことを『目飛ばし』と言います。
目飛ばしはストリングの性能がしっかり出てくれませんし、目飛ばしのストリングを使って試合に出ることはルール違反にもなりますので注意しながら張りましょう。
位相間違いに注意!
用語解説で紹介したとおりですが、特にATW(アラウンドザワールド)などで横糸を分けて張る際など、横糸同士が離れているため、最終的に隣り合う横糸が、同じ上下の波となってしまう間違いのことを「位相間違い」と言います。これも目飛ばしと同様、ルール違反の編み方になりますので、避ける必要があります。
横糸を分けて張る且つ離れた場所で張る場合は、位相を考えながら通していかなければなりません。
クロスオーバーに注意!
上述の通り、グロメットを通ったストリングが、フレームの外側で2本以上並走する部分で、ストリング同士がクロスして重なってしまうことを「クロスオーバー」と言います。
クロスオーバーさせないよう、並走する部分は注意しながらグロメットを通しましょう。
「横糸のテンションを下げる」問題についての考察
横糸のテンションを落とす方が、食いつきが良くなってスピンが掛かりやすい、スイートエリアが広がる、という巷の常識は、実際はどこのマニュアルにも書かれていませんし、科学的に立証されていることでもありません。
これは、おおよそ主観的なもの、すなわち思いこみ、先入観でしかありません。そして、その思いこみ、先入観を否定している訳でもないのです。
なぜなら、張り上がったストリングに対する性能評価は、本人がどう思うか=本人の主観でしか計れないからです。
横糸のテンションをどうすべきかについて少なくとも言えることは、
- ラケットを変形させないこと
- 再現性がある張り上げができること
これさえ担保できるなら、どんなトライをしてみても良いはずです。
基本を抑えた上で、自分が気に入った打感、自分の正解を見つけるためにアレンジを加えていくことは、多いにトライしていって良いと考えています。
2本張についての注意点
スターティングノットを使うべきか否か
2本張の場合、もしスターティングクランプを持っているなら、スターティングノットを作らずに、スターティングクランプを使って横糸を張り始めることをお勧めします。
なぜなら、スターティングノットは少なからずグロメットを痛める上に、推奨されるスターティングノット自体が簡単ではないためです。
もしスターティングノットを使うなら、推奨できるのは、”ホームストリンガー界のカリスマ”かないまるさんのサイトに掲載されている、フィッシャーマンズノットです。詳しくはリンクをご覧ください。
クロスストリングを張り終えたら
タイオフをする
縦糸でも横糸でも、タイオフ(結び目)の作り方は何も変わりません。
前回記事の通り、推奨はパーネルノット、ダブルノットです。この2つさえ覚えておけば、どんなストリングにもほぼ対応可能だからです。
毎回繰り返しますが、グロメットを痛めかねないエイトノットは非推奨です。
ストリングの歪みをなおす
横糸を全て張り終え、タイオフしたら、セッティングオールや指などで、ストリングの歪みをきれいに直しましょう。これで立派に張り上がりです!
まとめ
以上、クロスストリング/横糸の張り方、注意点をまとめました。
横糸の張り技術は、張り上がりの出来を大きく左右します。だからこそ横糸は気を使うのです。
尚、どんなに慣れた人でも、ナイロンよりはポリエステルの方が時間が掛かりますし、ナチュラルガットともなれば折れないよう、捻じれないよう、かなり気を使うため、さらに時間をかける必要があったりもします。
ガット張りのウンチクについては、また気づいたことを今後も書いていきたいと思います。
おまけ
以前に、ストリングマシンの選び方について記事をまとめました。もし本気でマシンを検討されている方がいれば、ぜひご覧ください。