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【ホームストリンガー】驚きの事実:ストリングは弦楽器としての性能と武器としての性能がある|”テニスを科学”している川副嘉彦先生からコメントをいただいて

ものすごく興奮した出来事がありました。

とあるテニス関連のSNSグループで、テニス用具研究の第一人者でもある川副嘉彦先生からコメントをいただいたのです。

私の以下の記事内容についてご質問いただき、その際のやりとりで教えていただいた内容はとても重要かつ興味深いものでした。川副先生にもお許しをいただいたので、ストリング性能についての有益な情報を、皆さんにもご紹介したいと思います。

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Contents

川副 嘉彦先生とは!?

ホームストリンガーや、ストリングに興味を持っている人たちの中ではものすごく有名な方です。テニス雑誌で解説されていたこともありますので、そのお名前を目にしたことのある人も多いと思います。

川副嘉彦さんは、埼玉工業大学の元教授であり、テニスを科学的に解析されている研究者です。ラケット操縦法の分析、ストリング性能の分析など数々の素晴らしい研究成果を残されています。いかに我々が感覚的な思い込みで道具を評価しているのか、そんなことにも気付かされます。

川副先生のご略歴

川副 嘉彦
カワゾエ ヨシヒコ

1944年(昭和19年) 生まれ(長崎県佐世保市)
学位 工学博士 (東京大学)
所属学会 日本機械学会,日本ロボット学会,日本テニス学会

恩師 故・津田公一先生:東京大学大学院工学系研究科広報室から
「名誉教授 津田公一先生を悼む」を読む ➡

略歴
1976年 埼玉工業大学 講師
1986年 埼玉工業大学 助教授
1990年 埼玉工業大学 教授
2012年 埼玉工業大学 定年退職
2012年 川副研究室 独立研究者

出典:川副研究室 KAWAZOE-LABO “研究者紹介“ページより

数々の業績を残されている川副先生の業績詳細はリンクページもご参照ください。

特に個人的に興味をひかれたのは、2000年にITF(国際テニス連盟)の依頼によって『テニスにおける新ラージボール導入に関する研究』で研究費助成を受けられていたことです。ITFとは!!川副先生がいかにすごい研究者か、これだけでも十分理解できますね。

そしてこの頃に、ITFがテニスのスピード化に歯止めをかける手段としてラージボールを検討していたという事実はものすごく興味深いです。それから20年が経って変化・進化したのは、ボールではなくラケットだったのでしょうか?もしくは操作する人間の技術の進化?サーフェスのスロー化?不思議なことに2000年の頃よりも、今はリターン巧者が活躍する時代に変化したように感じます。話がそれてしまいました(^^;

とにかく川副先生はテニス界にとって、とても偉大な研究者なのです!

川副先生からの問いとストリングの性能について

さて話は少々戻りますが、川副先生から私に投げかけられたのは、私の記事の中の”テンションロス”について、その打球速度の測定結果はありますか?というものでした。すなわちテンションと打球速度との関連についてのご質問です。残念ながら、私が行ったのはテンションロスをしないためのストリンギング手技についての検証でしたので、打球速度測定はしていませんでした。

実は以前から川副先生の研究結果には興味を持っていたため、『テンションやテンションロスとストリング性能の関係』については多少知ってはいました。しかし、今回の先生とのやりとりにおいてストリング性能についての重要な情報をより深く学ぶことができました。そのポイントを紹介していきます。

川副先生の研究報告から

なぜプロは試合中にラケットを替えるのか:

(1) ストリングが古くなっても反発性は低減しない.

(2)ストリング・テンション(初張力,取付荷重)は,弦楽器としての性能(感知できる振動,音,心理的)に影響しても,武器としての反発性(打球速度)には影響しない.

(3) ストリングは使用するほど,ノッチ(溝)ができて,スピン性能が低下するので,特に,トップ・スピン打撃ではコントロールが難しくなる.

したがって,試合の途中で選手がラケットを替える主たる理由は,時間の経過とともに低減するスピン量,コントロール性能を回復させるためである.

引用:川副嘉彦 (2017)., ”なぜプロは試合中にラケットを替えるのか”, 第 29 回テニス学会一般研究発表報告, p70-71

2005年あたりからそれまで謎であったスピンのメカニズムの解明が進み,ストリングの設計論が従来とは180度変わってきました.

「ナイロン,天然ガット,ポリエステルという素材の違いは反発性に影響しない」,

「テンションの違いは反発性に影響しない」,

「素材の違いはスピン量に大きく影響し,ポリエステルが最大,ナイロンが最小」,

「テンションの違いはスピン量に影響しない」,

「スピン量はガットを張り替えた時点から時間の経過とともに低減する(ボールコントロールが難しくなる)」,

したがって,

「試合の途中で選手がラケットを変えるのは,コントロール性能を回復させるためである」などが,最新の科学的な常識です.

出典:川副研究室 KAWAZOE-LABO “テニスのインパクトの謎を解く”ページより

改めて目から鱗の重要ポイントを以下ピックアップします。

科学的事実1

ストリングには、弦楽器としての性能とボールを飛ばすという武器としての性能という2つの性能がある。

科学的事実2

武器としてのストリングの性能反発性・打球速度は、テンション、経年変化、素材(ナチュラル・ナイロン・ポリ)の影響を受けない

科学的事実3

弦楽器としてのストリングの性能音・振動・心理面・打球感は、テンション、経年変化(テンションロス)の影響を受ける

※テンションが落ちるとインパクト後のストリングの音が低くなり振動数が低減する。

先生は『弦楽器としての性能』『武器としてのストリングの性能』のどちらも同じくらい重要と捉えられているそうですが、この区別についてユーザーや用具の専門家や関係者の中でも混同が多いようです。

要するに、テンションの変化や経年変化(テンションロス)を打球感として感じた際に、あたかも反発性や打球速度も変わってしまったように感じてしまう、という混同のことでしょう。

しかしながら、上記の引用論文でも述べられているように、もう一つ重要な”スピン”の要素もあります。

科学的事実4

スピン性能は経年変化・ノッチができることによって低下し、トップスピンのコントロールが悪化する

科学的事実5

素材の違いはスピン性能に影響する。

スピン量:ポリエステル>ナチュラル>ナイロン

科学的事実6

テンションはスピン性能に影響を与えない。

川副先生の研究発表や新聞発表においても、ストリングのスナップバック効果がトップスピン性能に大きな影響を与えていて、ストリングはツルツルほどスピンかかることが報告されています。

科学的事実7

新品と使用後のガットを比較すると、

スピン量:新品>使用後

ストリングとボールの接触時間:新品>使用後

打球速度:新品<使用後

川副嘉彦 (2017)., ”なぜプロは試合中にラケットを替えるのか”, 第 29 回テニス学会一般研究発表報告, p70-71からの情報

スイングパワー・スイング速度は打球速度とスピン量それぞれに影響を与えているが、使用後にノッチができてスピン量が落ちると逆に打球速度は高まり、その結果としてボールコントロールが悪化する、という理解ができました。スピン量と打球速度は、やはり相反する関係性ということですね。

私の考察

川副先生の研究報告を自分の理解のためにまとめたいと思います。

全てのショットがスピンを発生させないフラットのみだと仮定すると、打球速度、コントロールに対してはストリング種類、テンション、経年劣化(ノッチの発生)の影響はない。

ただし、実際に人間がテニスをプレイする上ではスピンという因子が必ず発生するため、ストリング種類、経年劣化(ノッチの発生)によってスピン量が変化すれば、弾道、コントロールにも影響がでる。

すなわち、

我々が感じとっている個別のストリング性能とは、

『弦楽器としての性能(音、振動、打球感)』

『スピン量』

『スピン量の変化→弾道の変化→コントロールの変化』

である。

このようにまとめたいと思います。

なお、川副研究室でもこれらの説明が明確に書かれていましたので参照ください。

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川副先生のコメントから、その他有益な情報

川副先生からお聞きした、他の有益情報もかいつまんでお届けします。

●テニス用具はまず、気に入る、好きだ、愛する、信頼する、などの感覚がとても重要であり、それが結果としてプレイの結果に大きく影響するようである。

●ポリエステルストリングが手肘に負担を与えるという論文は見たことがない(川副先生の実験では、ポリエステルとナイロンではグリップに伝わる衝撃振動にはほとんど違いがないという結果がある)

さいごに

驚きの事実を沢山仕入れることができました。

もう少し端的に分かりやすくまとめたかったのですが、端折りすぎても理解できないため、どうしても長くなってしまいました。

今後もストリングについての理解を深めて、出来るだけ分かりやすいように紹介していきたいと考えています。

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