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【ストリング】後編:なぜテンションロスが生じるのか?要因を明らかにし対処する

前回記事の続きとなりますが、前編では主にストリングマシンとラケット側のテンションロスにつながる要因を述べました。

今回はもう少しソフト面について触れ、テンションロスを避けるための対策・手技、工夫についての検証を交えて解説したいと思います。

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ストリングそのものの要因

前編でも記載しましたが、伸びが生じやすい(復元力が弱い)ポリエステルなどのストリングは、張り上げ中や張り上げ直後のテンションロスが大きいことが知られています。ちなみにストリングはどのような種類でも経時的にテンションをロスしていきますが、テンションの持ちが良い順位は一般的に、

ナチュラルガット>ナイロンストリング>ポリ系ストリング

とされています。

またスナップバック目的で、表面コーティングをしているストリングはつるつるとして滑りやすく、当然張り上げ中にもクランプが滑りやすいために注意が必要です。

ストリング種類によるテンションロスを避けるために

では上記についてですが、次のような対策でロスを軽減することが可能です。

プレストレッチ

前編でも記述しましたが、伸びやすいストリングはプレストレッチを行い、張り上げ後のテンションロスを軽減させるべきでしょう。

当然ですが、そのためにはストリングマシンは『プレストレッチ機能』がついていなければなりません。そして『プレストレッチ機能』がついているストリングマシンといえば、コンピューター制御のマシンである必要があります。

※プレストレッチをどの程度行うかはストリングによって変わります。

クランプの調整

表面が滑りやすいストリング、細いストリングを張る場合の滑りやすさは、クランプのダイヤルで挟む力を調整することで対処します。毎回同じクランプ設定ではダメで、この調整はサボらずにしっかりと行う必要があります。緩いと滑りますし、きつ過ぎるとストリングを痛めます。

またあまりに滑りやすいクランプの場合は、クランプそのものを交換する必要があるかもしれません。それほどクランプは超重要です!!

張りパターンの要因

簡単にまとめますと、以下の内容になります。

パターンメリットデメリット
1本張りテンションロスにつながりかねないタイオフの箇所が2つと少ないため、ロスが少ない。

失敗した場合のリカバリーが可能(2本張りへの移行も可能)。

ストリング使用量が最小で済む。

張り上げには一定の熟練度が必要。ショートサイド、ロングサイドのストリング長さを厳密に見極める必要がある。

縦と横のテンションを変えられない(変えにくい)。

2本張り張り上げ自体が簡単。

縦糸、横糸の長さの見極めが容易。

縦糸、横糸のテンション変更が可能。

ハイブリッド張りが可能。

テンションロスにつながりかねないタイオフの箇所が4つのため、1本張りよりはロスをしやすい傾向。

1本張りよりストリング使用量が多い。

テンションロスだけで考えると1本張りに軍配が上がりそうですが、テンションロスに注意してしっかりタイオフできるのであれば、あまり大差は出ないかもしれません。腕のあるプロストリンガーはあまりこだわらず、セッティングの調整を優先して柔軟に使い分けているようです。

しかしタイオフが苦手な張り手の場合は、大きくテンションロスにつながる部分です。

張る際の手技の要因

ここで紹介する手技は、ストリンギングする上で非常に差が出やすい部分と考えています。

上の写真のようにマシンでストリングを引いた状態でクランプをする前に、手やセッティングオールでストリングを軽く引っ張ってほぐす=ストリングの緩み取り作業を行います。

この作業はコンピューター制御のマシンと分銅式でしかできません。

※厳密に言うと、バネ式でも二度引きすれば出来るかも知れませんが、作業効率も悪く、コンピュータ制御電動式、分銅式ほどの精度は出せません。

またこのようなストリングをほぐす作業は、縦糸・横糸の張り上げ後にも行ったりします。この場合はマシンの種類に無関係で行うことができます。

『ストリングの緩み取り作業』は具体的に次のような目的で行います。

字の通り『緩みを取るため』

張り上げ時には必ずストリングが緩む部分が発生します。

例えば、クランプした場所とグロメットの間のストリングにはテンションがかかりません。それからグロメットを通ってターンした次の糸をマシンで引くわけですが、グロメットには摩擦が存在するため、直前にテンションがかかっていなかった『クランプした場所とグロメットの間のストリング』からテンションロスが発生しています。当然摩擦が大きいグロメットほどテンションロスは大きくなります。

この『グロメットの摩擦』によって発生した緩み、テンションロスをカバーするためにも、『ストリングの緩み取り作業』を行います。

『張りムラを慣らす』

縦糸をすべて張り上げた後、左右の同じ糸を弾いてみると、出る音の違いに気づきます。これはグロメットの摩擦などによって左右に張りムラが生じている証拠です。このムラを慣らし、左右が同じ音になるように、手やセッティングオールでほぐして調整(調音)します。ここでも『ストリングの緩み取り作業』を行います。

横糸は、グロメットの摩擦だけでなく、縦糸との摩擦も生じるため、テンションロスが特に発生しやすくなります。摩擦の大きいストリングであればなおさらです。また中央部と上下の端部によっても摩擦抵抗がかなり異なるため、テンションムラも生じやすくなります。

これら摩擦によって発生する、テンションロスや張りムラを慣らすために、横糸に対しても『ストリングの緩み取り作業』を行います。場合によって張り上げ後にも行います。

写真では手で作業していますが、セッティングオールで行う方が力が入りやすく、おおむね作業がしやすいと思います。

『ストリングの緩み取り作業』の効果を検証

さて今回『ストリングの緩み取り作業』によってどれだけの効果があるのかを検証してみました。コンピューター制御のマシンで張り上げながら、

  1. 『ストリングの緩み取り作業』を行った場合
  2. 『ストリングの緩み取り作業』を行わなかった場合

について検証です。なお、①②ともに『PRINCE TOUR100PにテクニファイバーXR3を50ポンドで1本張り』をし、緩み取り以外はほぼ同条件で張り上げを行いました。また張り上げ後の3日間で、交換しながらほぼ同頻度でプレイをしました。

検証にあたっては、RacketTuneアプリ※(有料スマホアプリ)を用いた簡便なテンション測定としました。

※セッティングオールの柄などでストリングをカンカンと叩き、その際に発生する音でテンションを測定する。ただしあくまでもその値は参考値であり、あくまでも目安の強度。同一ラケット同一ストリングで測定する場合については張り上がり強度の相対的な参考としやすい。また張り上げたストリングの経時的な変化についても参考にできる。

『ストリングの緩み取り作業』を行った場合

  • 張り上げ直後
  • 張り上げ後2日/1.5時間使用後
  • 張り上げ後3日/3時間使用後

上記で経時的にテンションを測定しました。

『ストリングの緩み取り作業』を行わなかった場合

  • 張り上げ直後
  • 張り上げ後2日/1.5時間使用後
  • 張り上げ後3日/3時間使用後

上と同じ条件下において経時的にテンションを測定しました。

検証結果

緩み取りを行うとテンションロスが少ない影響で、張り上がりのテンションもしっかり出せました(緩み取りありは53.8lb、なしは52.5lb)。

また経時的変化、プレイ後の変化においても、緩み取りを行った方がテンションロスの数値、ロス率ともに小さくなっていました。

『ストリングの緩み取り作業』は、テンションロスを減らし、経時的なテンションロスも軽減できる。ロスの少ない張り上げする上でとても重要。

と言えそうです。

張り手の要因

張り手の違いによって張り上がりに差が出る要因は、これまで述べてきたセッティング・手技に関しての熟練度、実行度の違いとなります。端的にまとめると、

  • 緩みやすいストリングのプレストレッチ
  • 張り上げの際のマシンセッティング(ストリングに合わせたクランプ調整など)
  • 張りパターン・タイオフ作業(1本張り、2本張り、タイオフ技術など)
  • ストリングの緩み取り作業

これらをいかに丁寧に遂行できているか否かが、張り手による張り上がりの差となります。

まとめ

これまで述べてきた内容以外にも、ストリングは季節・気候(温度・湿度)の影響も受けますし、同じマシンでも狂いやズレが起きる可能性はあります。ですのでストリンガーは様々な変化に対して、臨機応変に対応していく姿勢も重要です。

人的な要因で注意を欠いたばかりにテンションロスをさせてしまったり、本来行うべき微調整を軽視して張り上がりに差が出てしまうようなことは避けたいものです。プロならそれは当然ですし、ホームストリンガーであってもよりよい張り上がりを目指して、技術修練していきたいものです。私もまだまだですが。

テンションロスなく丁寧に張り上げられたストリングは、緩みにくく快適性を保ってくれるはずです。

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