あなたが任せているストリンガーは信頼できますか?
あまりに質が悪い張り上がりに対しては、しっかりと注文をつけたいですが、あなたは張り上がったストリング、ラケットのどんなところをチェックしていますか?張り上がったストリングを、儀式的に掌底打ちしてから、なんとなく「これで良いです」と言っていませんか?
張り上がりには「しっかりテンションが出ている」以外に、チェックすべき重要なポイントがあります。せっかくガット張りにお金を払うのであれば、最低限のチェックをしておきたい!でも何をチェックすれば良いかわからない!?
今回は、そんな方々に役立つような、
”誰にでも理解・実践できるストリング張り上がりチェックの方法”
を紹介したいと思います。
良いガット張りとは?
日本ラケットストリンガーズ協会(JRSA)がまとめている”「良い張り上がり」8つのポイント”、これが出来ていれば張り上がりとしては満点です。
- フレームに変形がない。
- ストリング1本ごとのテンションに、バラツキがない。
- 指定のストリングパターンを守る。
- ストリングとフレームに傷を付けない。
- 適正なノットがなされている。
- 目飛ばしやクロスオーバーがない。
- 同一条件のもとで、同じ張り上げができる。
- クロスストリングは揃えながら張り上げていく。
日本ラケットストリンガーズ協会WEBサイトより
しかし、パッと見だけで判断できない項目、特に張るプロセスについての項目は素人には評価ができません。
今回紹介するのは、どんな素人でも見た目だけで判断できる、次のチェックポイントについてです。
誰にでもチェックできる張り上がり 4つのポイント
- フレームの変形
- ストリングとフレームの傷
- 適正なノット
- 目飛ばし・クロスオーバー
ラケットフレームの変形
一番分かりやすい見た目のチェックポイントが、ラケットフレームの変形です。
ストリングは、必ず縦糸から最初に張り始めますが、その際にまずはどんなラケットでも縦につぶれが生じます(大なり小なりはあります)。そして横糸を張っていく時に、この縦つぶれを解消していき、元通りの形(ストリングを張っていない時と同じ形)に戻します。
特に柔らかいフレームのラケットでは次のような変形が起こりやすく、腕の悪いストリンガーだとその可能性が高くなります。
- 縦につぶれ過ぎて、フェイスが丸っこく変形している状態
- 横につぶれ過ぎて、フェイスが縦長に変形している状態
これをチェックするカンタンな方法は、自分のラケットの長さを把握しておき、張り上がりで長さを測定することです。長さが変わっていなければ、まず変形していないと判断できます(厳密に言うと部分的な変形は起こりえますが)。
また日頃から自分のラケット形状をよく見ておき、張り上がり後に形が変わっていないかを判断できるようになることも大切です。
ストリングとフレームの傷
フレームの傷
ここもしっかりチェックしましょう。
プレイ中につけるフレーム小傷や塗装はがれは主にフレーム外側に起こりやすいですが、ストリンギング中につけてしまう傷は、フレーム内側に見られることがあります。張り上がりチェックでは、特にフレーム内側もしっかり確認するクセをつけましょう。
フレームの傷は弁償ものです。
- ストリングマシンへのセット時に傷つける
- クランプをフレームに近づけすぎて、クランプがズレて傷つける
- セッティングオールや目打ちを使っている最中にフレームを打ってしまい傷つける
- ビリヤードがズレてしまい傷つける(上下の固定部分)
フレーム外側が傷ついてしまう可能性としては、次のようなものがあります。
- ストリングマシンへのセット時に傷つける
- スターティングクランプをセットするときに当て革をせずに傷つける
- セッティングオールや目打ちを使っている最中にフレームを打ってしまい傷つける
- サイドサポートのセットが甘く、ズレてしまって傷つける(外側4点の固定部分)
ただし、フレームの傷については、あらぬ疑いをかけて余計なトラブルを生まぬよう、自分でつけた傷、既についている傷は事前にしっかり把握しておきましょう。
ストリングの傷
ストリングに傷をつけるなど、お金をとるストリンガーとしては言語同断です。発見次第、その場ですぐに張り替えてもらいましょう。
- ストリングの滑りやすさ、糸の太さに合わせたクランプのセッティングをしていないため、クランプが滑ったりズレたりして傷つける
- 目打ちやニッパーなどの鋭利な金属を使用中に、不注意で傷つける
- 破損したグロメットを補強しなかったため、穴のフレームエッジでストリングを傷つける
- 張っている最中に下に垂らしているストリングを踏んづけてしまったり、何かに引っ掛けてしまい傷つける
適正なノット
ノットの良し悪しも、張り上がりの最も重要なチェックポイントのひとつです。
最初は悪いノットから紹介します。
ダメなノット:エイトノット
ストリンギング/ガット張りが専門ではない、スポーツ量販店によくありがちなノットがこのエイトノットです。いまだに根強く残っているのですが、この張り方をしているストリンガーは、あまり信頼に値しないと思います。理由は明白です。
- 結び目が小さいためグロメットを痛める
- 結び目が小さいためグロメットにめり込む、抜ける可能性がある
- 摩擦が働きにくいため、滑りやすいストリングでは結び目がほどける可能性がある
非常に簡単なノットで、誰にでもすぐにマスターできる結び方だったためか、一昔前は当たり前のように見られました。実は、私も学生時代にはこのタイオフをしていました…。
しかし今では「ダメなノット」「意味が分からないノット」と酷評されています。張り手にとってカンタンなだけで、ユーザーには何のメリットもありません。
続いて、良いノットを2つ紹介します。
良いノット①:ダブルノット
ダブルノットは現在主流のノットといって良いのではないでしょうか。見た目も性能も良く、ほぼ欠点がありません。
ダブルノットを施すストリンガーであれば、ノットについては信頼できそうです。
- 表裏ともにキレイな2重巻きが見え美しい
- メインストリングにガッチリ2重にしがみついているので、グロメットに負担をかけにくい
- 結び目が適度に大きくグロメットへめり込まない
- 先端がフレーム方向に倒れるため、先端に触るリスク(手指のケガ、衣服傷つけ)が少ない
- 強固な結び目でほどけるリスクが極めて少ない
良いノット②:パーネルノット
ひと昔前まではあまり聞いたことがなかったのですが、いまではすっかりメジャーなノットになりました。
とてもシンプルでカンタンな結び方にも関わらず、ダブルノットにそん色ない性能を持つ万能型のノットです。このノットを使うストリンガーも問題ないでしょう。
- 表はスッキリした見た目、裏面はダブルノットに近い2重巻きが美しい
- メインストリングにガッチリしがみつき、グロメットの負担が少ない
- 結び目はグロメットへめり込まない大きさだがダブルノットよりはコンパクト
- 先端がフレーム方向に倒れるため、先端に触るリスク(ケガ、衣服傷つけ)が少ない
- 強固な結び目でほどけるリスクが極めて少ない
- 結び方がとてもカンタン(エイトノットと手数はあまり変わらない)
ノットに関する理解を深めたい方へ
ホームストリンガー界の神”かないまる”さん
ダブルノット、パーネルノットの手技や意義は、私が勝手に心の師匠と思っているホームストリンガー界の神”かないまる”さんのサイト、『かないまるのガット張り』から学びました。特にノットの解説、ストリングの張り方については、これ以上分かりやすいサイトはないと思います。
http://kanaimaru.com/1109RacketString/0f.htm
かないまるさんのサイトでは、ノットの手技についてもオープンにされています。ご本人にお許しをいただきましたので、上述した3つの結び方をご紹介します。
プロストリンガーの手技
私が以前に有料講習を受けた、有名プロストリンガーの澁谷さんは、グロメットホールの大きさによっては、トリプルノット(ダブルノットにもう一重加えた結び方)や、ダブルダブルノット(ダブルノットを二回重ねるノット)も使うことがあるそうです。
目飛ばし・クロスオーバー
これらもストリンガーとしては言語同断のミスです。これに気づかずにユーザーに渡してしまう店は金をとる資格がありません。
目飛ばし
ストリングの横糸は縦糸に対し、上下上下と交互に通していきますが、それを”上上”や”下下”と同じ側を連続して通してしまうことを『目飛ばし』と言います。
目飛ばしはストリングの性能がしっかり出てくれませんし、目飛ばしのストリングを使って試合に出ることはルール違反にもなります。
目飛ばしはしっかりチェックし、見つけたらすぐに張り替えてもらうか、返金してもらって他店に張りに出しましょう。
簡単なチェック方法は、ストリング面を斜めから薄く見ることです。斜めからストリングの凹凸を眺めると、目飛ばしはすぐに発見できます。
クロスオーバー
ストリングを張り上げると、フレームの外側に見えるストリングが2重に並走する箇所が必ずできます。これが重ならずに並走していれば良いのですが、注意せずに張ると、クロスして重なってしまうことがあり、これを”クロスオーバー”と言います。
クロスオーバーは経験の浅いストリンガーに多く見られるミスです。私も…自分のストリングでは何度もやってしまったことがあります。
次のようなデメリットがあるため、許容はできない、即張り替え直し案件です。
- クロスした部分の摩擦によってストリングが痛む可能性がある
- クロスに重なった部分がフレーム外側へはみ出した場合、ストリングに傷がつく可能性が増える
- 見た目が悪い
ちなみにハイブリッドの2本張りでは、フレーム外側でのストリング並走箇所が増えます。並走箇所が増えるとクロスオーバーが起こる可能性も増えますので、しっかりチェックしましょう。
また縦糸と横糸で同じグロメットを共有するパターンのラケット(例えばヘッドグラフィンタッチスピードPRO、MP等)でも、クロスオーバーが起こりがちですので、しっかりチェックしましょう。
まとめ
見た目で分かるカンタンな4つのチェックポイントをご紹介しました。
少なくともこの4つだけでもしっかりチェックしてみてください。張り手に「この客、ちょっと分かっているな」と思わせることにも意味があります。
良い張り上がりを期待するのであれば、ユーザー自身もしっかりする必要があると思うのです。
誰にでもチェックできる張り上がり 4つのポイント
- フレームの変形
- ストリングとフレームの傷
- 適正なノット
- 目飛ばし・クロスオーバー