テニスラケットやストリングの実証研究で有名な、川副元教授の研究実績から、
ストリングの反発力は、その素材種類、テンション、経年変化(テンション低下)の影響をほとんど受けない。
ということが分かっています。過去の記事で扱ってきた情報ですが、実際にプレーする上で理解しておくべき補足がありますので、今回紹介したいと思います。
ストリングの反発性能は素材の違いによる影響をうけない
ストリングの反発性能は、ナチュラル>ナイロン>ポリエステルと一般的には理解されているケースが多いのですが、「純粋な反発性能(反発係数)は、素材・テンションによる違いはない」ということが実証されています。また、素材によって手や腕への衝撃、負担も変わらないということも分かっています。
「初心者だし、まずは飛びの良いナイロンの方が良い」
「楽に飛ばしたいなら、一番反発が良いナチュラルを選んだら?」
このようなアドバイスを、かつては私もしてしまったことがありますが、この説明は理解不足で間違いでした。
一方で、ナイロンやナチュラルの方が、ボールの飛距離が出やすい=飛んでくれるという主観的な感覚を持っている人は多いと思います。これについては決して間違いではなく、そう感じる明確な理由があります。
ストリングの素材が変わるとスピン量が変わる→その影響で弾道が変わる→その結果として飛距離が変わる
この表題がすでに答えですが、ストリングそれぞれの素材で反発性能はほぼ変わらないものの、
スピンのかかりやすい素材ほど弾道(打球角度)が下がりやすく、スピンがかかりにくい素材ほど弾道(打球角度)が上がりやすい
ということが分かっています。
スピン量の大きさは以下川副先生のサイト引用の通り、
ポリエステル>ナチュラル>ナイロン
となりますので、弾道はポリエステルが一番低く、ナイロンが一番高くなります。
国際テニス連盟(ITF)も実験を行い、ポリ系ストリングのスピンは、ナイロンよりも20パーセント大きく、ナチュラルよりも11パーセント大きいことを2013年に発表しました。(2013,ITF*)
川副研究室 テニスラケットの科学(590)より
ここでは、
ナチュラル(天然ガット)100%に比べて、
ポリエステルは、11 % 大きく(110 %)、
ナイロンは、9 % 小さい( 91 %)
を仮定して、打球の速さと方向をベクトル図で予測します。
素材(ナイロン、ナチュラル、ポリエステル)の違いによる
川副研究室 テニスラケットの科学(590)より
・打球の速さは、ほぼ同じ(0.7%の範囲)
・水平から上方向への打球の方向(角度)は、おおよそ
ナイロン(10度)、
ナチュラル(8度)、
ポリエステル(6度)
上記引用の通り、弾道に差が出るにもかかわらず、打球スピードは素材による差がほとんどないため、結果として飛距離は、
ナイロン>ナチュラル>ポリエステル
となるわけです。
まとめ:同じ打ち方をしている場合、ナイロン>ナチュラル>ポリエステルの順で飛距離が出ることを理解してストリングを選択しよう
ストリング素材の影響で変わるのは、以下の三点です。
- スピン量
- 弾道
- 飛距離
全く同じ打ち方をしている場合は、ナイロンが一番飛距離が出て、次にナチュラル、一番飛距離が抑えめなのがポリエステルとなります。
留意すべき点としては、これらはボールに(意図的か否かは問わず)順回転(トップスピン)がかかっている場合の話であり、ほとんどスピンをかけないフラットな打ち方をする人であれば、素材による飛距離の差は小さくなるはずです。
ですので、一律で誰もが同じように飛距離が変わるわけではなく、普段の打ち方によって飛距離差の大小が生まれます。「飛ばしたいからポリではなくナイロンにする」という単純な理解ではなく、その人ごとの打ち方を考慮してストリングの種類を選ぶ必要がありそうです。
- どれだけスピンをかけたいのか
- どのような球筋で打ちたいのか
- スピンによってどの程度深さをコントロールしたいのか
という観点を持ち、自分自身とのマッチングを見ながら、ストリングの素材を選択すると良いでしょう。
- 素材・テンションによる反発力の差はほとんどない
- 素材によってスピン量は変わる:大 ← ポリエステル>ナチュラル>ナイロン → 小
- 素材によってスピン量が変わる影響で弾道が変わる:高 ← ナイロン>ナチュラル>ポリエステル → 低
- 素材によって弾道が変わる影響で飛距離が変わる:長 ← ナイロン>ナチュラル>ポリエステル → 短
- ストリングの素材と飛びは、「スピン量、弾道、飛距離」の三段論法で理解する
ボールの飛びの違いは、ストリング素材の反発性の違いによるのではなく、スピン量が少ない素材ほど打球速度の方向がヘッド速度の方向に近く、飛距離が伸びるということです。
川副研究室 テニスラケットの科学(590)より