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【ストリングの真実】インパクトの瞬間、テンションの影響は極めて小さくなる!?

少し前の記事で、テニスギア研究でも有名な川副嘉彦先生の研究結果として、次の内容をご紹介しました。

テンションが低いほどストリングのたわみは大きいが、ボールの変形量には影響しない

⇒ テンションが違っても、ボールの変形によるエネルギーロスの差は生まれない

⇒ テンションによるボールとストリングの反発性にはほぼ違いがない

この事実はプレーヤー目線からすると、とても意外な事実で、ピンとこない方が多いかも知れません。

今回、ストリングのテンションと性能の関係性について、もう少し掘り下げて、わかりやすく考えていきたいと思います。

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テンションには2種類が存在する!

我々がストリングの性能を語る時に、最も重要視するもののひとつがストリングの”テンション”ですが、川副嘉彦先生の研究をみると、テンションには大きく次の2種類があることがわかります。

  1. 張り上げテンション:張り上げる時にストリングを引いた強さ
  2. インパクトのテンション:張り上げテンション+インパクトでたわんだストリングが戻ろうとする力

実際に打球に直接影響を与えるテンションはのどちらでしょうか?

そう聞かれると理解しやすいと思いますが、当然答えはのインパクトのテンションです。

つまりテンションと性能を語る場合は、張り上がった状態のボールを打っていない状態のストリングの硬さ・面圧よりも、実際にボールを打つ瞬間のインパクトのテンションから語るべきなのです。

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インパクトのテンションについての科学的事実

インパクトのテンションについては、とても意外な事実が明らかになっています。

データが明かす:張り上げテンションはインパクトのテンションにほとんど影響を与えない

資料:川副嘉彦先生ご提供 テニスのデカラケ,厚ラケでコントロールとスピードがよくなるのはなぜ
スポーツ工学(JSEA機関誌),No.2,  (2007), 23-28
  • 縦軸:面圧(=インパクトのテンション)
  • 横軸:変形量(=たわみ量
  • VB:衝突速度(ボールを打つ際のスイング速度

このグラフから言えることを分かりやすくまとめると次の通りです。

データが示す事実

  • 『たわみ量』はスイング速度にかかわらず張り上げテンションが低い方が大きい(45lb>55lb>65lb)
  • 張り上げテンションは『インパクトのテンション』にほとんど影響を与えない
  • インパクトのテンションに差がないので、『インパクト・タイム(ボールとストリングスの接触時間)』も張り上げテンションの影響を受けない

割と一般的になっている認識について、正誤をつけてみると次のようになるでしょう。

○ 張り上げテンションが低いとボールの食いつき(たわみ)が良い

× 張り上げテンションが低いとホールド時間が長くなる

× 張り上げテンションが低いと手肘に優しい

※例外として、10m/sという、一般プレーヤーレベルでも非常に遅いスイングスピードの時だけ、面圧にやや差がみられています(張り上げテンションが低い方がインパクトテンションもやや低い)。しかしながら、実際プレーする上での現実的なスイング速度は20m/s以上とされていますので、10m/sデータの重要性は大きくありません。

インパクトにおけるテンションは、張りあがりテンションよりはるかに大きい!

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川副先生のWEBサイトで記載されていますが、インパクトのテンションは200~300ポンドにもなるそうです。そのため、張り上げテンションの20ポンド程度の差は、インパクトにおいてはとても小さなものになります。このことは、張り上げテンションがインパクトに与える影響が少ない理由のひとつです。

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川副先生の分かりやすいご説明

川副先生から、素人の私に分かるように教えていただいた内容も記したいと思います。

川副先生ご説明要旨
  • 張り上がりテンションが違っていてもインパクトでのテンションはほとんど同じ
  • なぜかというと、インパクトでは、緩く張ったストリングはたわみが大きく、硬く張ったストリングはたわみが少ないことになるが、たわみが大きいほどインパクトテンションは大きいため
  • したがって(張り上げテンションの差はインパクト時に)トントンになる
  • インパクト以前に、張るときに強めに引っ張っておくか、緩めに引っ張っておくかの違いで、それがインパクトで(ボールによって)さらに引っ張られるわけだが、強めに張っていたストリングは弱めに張っていたストリングより伸びが少ないことになる

ボールにかかる力(=インパクトのテンション)が変わらないという事実は、張り上げテンションによって反発性に違いが出ないことの裏付けにもなるでしょう。

まとめ

我々が強く感じている割には、張り上げテンションによる打球への性能面の影響は、科学的には少ないことが分かっています。

川副先生の研究で明らかになっているのは、張り上げテンションの影響を大きく受けるのは、ストリングの”弦楽器としての性能=音、振動、手の感触”です。つまり、張り上げテンションによってインパクトのテンションは変わらなくても、インパクトの音、振動、手の感触は大きく変わる可能性があるということです。

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これらをふまえて、今回の記事のポイントをまとめたいと思います。

  • 張り上げテンションは、あくまでボールを打っていない状態のストリングの硬さのことで、インパクトのテンションとは全く別物である
  • 張り上げテンションの違いによって武器としての”反発性能”や”ホールド性能” を語るのは誤り
  • 張り上げテンションが低いと、食いつきが良いためスピンが掛かりやすい、という認識は誤り
  • 張り上げテンションは弦楽器としての性能に影響を与えているため、プレーヤーが主観的に感じる”反発感(弾く際の音や振動)” ”ホールド感(ストリングがたわむ感覚)”は張り上げテンションの影響を受けている
  • 張り上げテンションの好みとは、”弦楽器としての性能=音、振動、手の感触”の好みのことである

張り上げテンションは、弦楽器としての性能には大きく影響を与えるため、決して軽視すべきものではない、ということだけは最後に付け加えたいと思います。

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