最近、「ガットを1本張りする場合、縦糸と横糸のテンションを変えても良いのか」という疑問をSNSで拝見しました。
先に結論になりますが、答えは「可能」です。職業ストリンガーの方も複数答えられていましたし、私が有料講習を受けたプロストリンガーの方も、「途中でテンション設定を変化させること」は問題ない旨コメントされていました。
ただ1本張りで張る場合、緩いテンションの部分が強いテンションの方に引っ張られて、全体のテンションが均一化してしまうように思いませんか?
そこで、実際に縦と横のテンションを変えて、ストリングがどう動くのか、もしくは動かないのかを検証してみました。
また、せっかくですので、タイオフ直前のストリングでテンションロスをしてしまった場合の影響も、合わせて検証してみました。
縦糸と横糸のテンションを変える意味
縦糸(メインストリング)と横糸(クロスストリング)のテンションを変えて張る意味としては、主に次のようなことが挙げられます。
- フレーム変形防止(縦横へのつぶれ防止)
- 打感の調整
- ストリング性能の調整
例えば、柔らかくてつぶれが生じやすいフレームのラケットは、縦と横でテンションを変えることでフレームの変形を調整できることがあります。
縦横のテンション変化は、ユーザーの主観的な打感に大きく影響するので、好みの打感を実現するためにあえて縦横のテンションを変えることもあります。
ストリングの性能に与える影響では、例えば横糸のテンションを落として縦糸を動きやすくすることで、スナップバック=スピン性能を向上させうる可能性があります。
通常は、縦と横のテンションを変える場合、2本張りを行うケースが多いと思いますが、それを1本張りで行う場合、何か問題があるのか?ないのか?
実際に検証してみます。
セッティング:縦横で4ポンド差/タイオフ時のテンション+10%はナシ
通常、私は縦横のテンションを変えずに1本張りしますが、今回は次のように縦横4ポンドの差で張り上げてみました。
- ラケット: WILSON PRO STAFF X V14
- ストリング: YONEX POLYTOUR FIRE
- テンション等:縦51ポンド 横47ポンド それぞれプレストレッチ5%、タイオフ時テンション+10%はナシ
※通常のセッティングは49ポンド プレストレッチ5%、タイオフ時テンション+10%
1本張りでテンションを切り替える部分を観察してみる
特に写真で示した3か所について、観察前後の変化が分かるよう、マジックでマーキングをしておきました。
- 縦から横へ切り替えた最初のストリング(メインサイド)
- 縦から横へ切り替えた最初のストリング(ショートサイド)
- テンション+10%をしなかったタイオフ直前の緩めのストリング
3時間のヒッティングを行った結果は、次の通りです。
①縦から横へ切り替えた最初のストリング(メインサイド)
写真の通り、マーキングした部分は全く動いていません。
②縦から横へ切り替えた最初のストリング(ショートサイド)
ショートサイドの横糸も、マーキングした部分が全く動いていません。
③テンション+10%をしなかったタイオフ直前のゆるゆるのストリング
どうでしょうか。タイオフ直前の一番下のストリングは、1mm程度動いたように見えます。
しかしながら、手で触ってはっきり分かるくらい緩く張られているこの1本でさえ、ごくわずかに動いた程度です。実際のヒッティングポイント、スイートエリアのテンションにまで影響が出ることは、考えにくいと言わざるを得ません。
ただし、対価を得て張り上げるプロストリンガーであるなら、技術者として最後の1本までしっかりとしたテンションを保って張り上げてもらいたいとは思います。
検証結果
想像通りではありましたが、今回の検証の結果、次のことが言えると思います。
- 1本張りの際、縦横のテンションを変えてもテンションが均一化することはない
- 緩んだ部分があっても全体のテンションの緩みにはつながらない
- 1本張りの際に縦糸と横糸のテンションを変えても特に問題はない
ストリングはグロメットを通って逆方向へ折り返されるため、そもそも簡単には動きません。折り返されることに加え、グロメットの摩擦が生じるため、なおさら簡単には動きません。縦と横のテンションを数ポンド変える程度では、何も問題は起こりません。
考察
テンションの緩い部分(今回の検証では横糸とタイオフ時の1本)があったとしても、そのせいで全体が緩んでくることはほぼ考えられません。それよりも、ストリング自体の経時的な伸びの方が、ストリング全体のテンションが緩む要因としては圧倒的です。
しかし、テンションの部分的な調整は、ストリングの弦楽器としての性能(音・振動・心理面・打球感)には大きく影響を与えるため、決してなんでも良いというわけでもありません。
1本張りでも2本張りでも、場合によっては縦横のテンション調整も検討しながら、自分の好みの打感を実現するテンション、セッティングを見つけてみてはいかがでしょうか。