テニスウェアは一般的にはデザイン、メーカー、ブランドを重要視される方がほとんどだと思います。私ももちろんデザイン、メーカーで選びますが、ウェアに使われている素材も意外に重要視しています。デザインが気に入っても、素材によっては買わないこともあるくらい。
奥は深いけれど、簡単に理解できるテニスウェアの生地素材について、わかりやすく紹介してみたいと思います。
テニスウェアに用いられる生地素材
私はかつて素材系化学メーカーに勤めていたことがあり、どんな素材がどんな意図で使われているかに注目してしまう癖があります。
改めて所有するテニスウェアをチェックすると、使われている素材は次の通りでした。恐らくテニスウェアに一般的に使われる素材としては以下で網羅されていると思います。
- 綿
- ポリエステル
- ナイロン
- アクリル
- ポリウレタン
- ウール
それぞれの素材特性を紹介いたします。
綿(コットン)
言わずと知れた、綿花から作られる天然繊維です。我々の生活に一番密着した生地素材と言って間違いありません。肌に直接触れる衣服に多用されているのがコットン生地です。
吸水性、保温性、肌触りが良い、耐熱性、安価、長期間劣化せずに保存可能
濡れると重くなる、吸汗量に限界がある、縮みやすく伸びやすい、シワが入りやすい、日光焼け、黄ばみ
用途
肌着、Tシャツ、Yシャツ、ジーンズ、寝具など非常に多岐に渡る
テニスウェアとして用いられる意図
吸汗性の高さから以前はテニスシャツと言えば綿(コットン)一択でしたが、現在は高機能の化学繊維に取って代わられてしまいました。着替え用、練習用のテニスTシャツは今でもコットン100%のものが多いです。コットンの肌触りの良さは、リラックスタイムに着る服にふさわしいと言えます。
2000年代初頭までテニスシャツはコットン素材が主流だった。サンプラス(写真左)は現役を終えるまでコットン素材のシャツにこだわり続け、ラフター(写真右)もリーボックのコットン素材のシャツを愛用していた。
またテニス用ジャージなどは、化学繊維とコットンの混紡のことが多く、肌に触れる内側をコットン生地の配置にしているものが多くみられます。表地はポリエステル、裏地はコットンの配置です。
ポリエステル
ポリエステルは最もポピュラーな化学繊維です。コットン素材の代替えとして使われるケースが多く、速乾性があるためその目的でも多用されます。ナイロン、アクリルと合わせて三大化学繊維とも言われます。テニスウェアに最も用いられている生地素材が、このポリエステルです。最近ではテニスストリングの素材としても有名です。
耐久性、耐熱性(化学繊維の中では)、耐候性、速乾性、軽量、防シワ性
毛玉、静電気、汚れの吸着
用途
スポーツウェア全般、テニスストリング、肌着、Tシャツ、Yシャツ、スカート、ズボン、寝具、バッグ、ネクタイなど非常に多岐に渡る
コットンとの混紡でも多様される
テニスウェアとして用いられる意図
ひと昔前までテニスシャツは吸汗性の高いコットン素材が選ばれてきましたが、プレイ中にかく汗の量はコットン素材ですら受け止めきれないため頻繁な着替えが必要でした。ポリエステル素材は吸汗目的というより速乾性が目的で、生地の織り方の工夫も相まって濡れてもサラッとした着心地を実現します。
生地自体はとても強く、長期間の保存も可能です。毛玉の出来やすさという問題はありますが、これも生地が強いことの裏返しです(摩擦に弱いコットンは毛玉ができる以前に擦り切れます)。
生地の織り方によって、伸縮性、通気性などのコントロールもしやすいため、テニスのシャツ、パンツ、ジャージ、帽子、ソックスなど幅広く用いられています。
フェデラーモデルのナイキのテニスシャツは、ポリエステル100%のものが多かった。伸縮性の高いポリウレタンを混紡せず、ポリエステルで織り方の工夫によって高機能ウェアを作り出していたナイキはさすがである。2018年全豪優勝時に着ていたシャツもポリエステル100%。
尚、現在着用中のユニクロでもポリエステル100%のものが多い。
ナイロン
ナイロンはポリエステルに続いてポピュラーな化学繊維です。ポリエステル同様にストリングの素材としても有名です。世界初の化学繊維がこのナイロンで、当初は靴下やストッキングの強度をあげる目的で開発されたようです。また絹の風合いを安価に実現することも目指していたとされています。その光沢感は絹のイメージだったんですね。
ちなみに『ナイロン』はデュポン社の商標名であり、一般名はポリアミドです。
耐久性、伸縮性、軽量、速乾性、光沢感、吸水性は低いが吸湿性がある、発色が良い、経年変化が少ない
熱に弱い、日焼け・色あせ、安っぽい
用途
スポーツウェア、シャカシャカ、バッグ、レインコート、カーペット、靴下、ストッキング、スーツ・スカート裏地など
テニスウェアとして用いられる意図
軽いが耐久性が高い、発色が良い、耐候性にも優れる、光沢感がある、という特性を生かしてシャカシャカに用いられていることが有名です。表面処理や繊維形状の工夫などで撥水性を高めることもできます。
アクリル
アクリルは三大化学繊維のひとつで、ウール(毛)の風合いを安価に実現することを目指して開発されました。テニスウェアとして最近は出番が少ない素材です。
ウールに似たふっくらとした風合い、保温性、軽量、混紡しやすい、型崩れしにくい、安価
毛玉、静電気、熱に弱い、蒸れる
用途
セーター、ニット、ジャージ、フェイクファー、コート、毛布、ニット帽、靴下、ぬいぐるみ、など
テニスウェアとして用いられる意図
テニスウェアとして、最近ではあまり主要な素材ではありません。以前はチルデンセーターやベストなどニット素材によく用いられていました。
昔のテニス用ジャージにはアクリルもよく用いられたようです。
ボルグが着用していた超有名なフィラのジャージは、アクリルとウールの混紡素材だった。イタリア製でウール混の高級ジャージは、当時のテニスファンにとってなかなか手の届かない憧れの商品だった。状態の良い個体は、今でも中古市場で高額取引されている。
ポリウレタン
ポリウレタンには様々な呼称があり、やや混同しやすいです。海外製品では特に呼称が多く、スパンデックス、ライクラ(Lycla)、エラスタン(Elasthanne)、PUなどと表記されます、もちろんすべて同じ素材=ポリウレタンです。
ポリウレタンは弾性がとても高いのが特徴です。単独で使うことはなく、ストレッチ素材を作る目的で他素材に混紡されます。
また衣服の接着剤や、ゴム風の表面コーティングに用いられたりもます。テニスラケットのラバーコーティング、ベルベットコーティングは全てこのポリウレタンが材料となっています。
高弾性、伸縮性、ゴムより引っ張り強度が高い
経年劣化(加水分解)しやすい、劣化によるベタツキ、寿命は数年
用途
スポーツウェア全般、水着、伸縮性を求められる衣服(パンツ、靴下、肌着、セーターなど)、キネシオテープ、包帯、サポーター、衣服の接着剤・芯材、人工皮革、グリップテープ、ラケットのゴムコーティング
テニスウェアとして用いられる意図
その伸縮性はテニスを始めとしたスポーツウェアには最適であり、タイトフィットなスタイルが流行っていることもあり多用されています。
テニスウェア、短パン、ウォームアップなどにポリウレタンが数%~15%程度混紡されているケースが多く見られます。
しかしながら、個人的にはポリウレタンが混紡されているウェアはあまり購入したくありません。何といってもそのデメリットは経年劣化がすさまじいところです。加水分解を起こしてしまったポリウレタン製品は、二度と復活させることができません。
テニスウェアも決して安くはありません。記念品にしたいウェア、出来るだけ長く大切にしたいお気に入りウェアに、ポリウレタンが使われていればそれだけで台無しです。実際にポリウレタンを使わずにウェアの快適性を実現している例もあるわけです。この点をメーカーサイドに強く要望したいところです!!
ウール(毛)
最後は、天然繊維のウール(毛)です。セーターやスーツに使われているイメージが強いウールですが、実は非常に優れた素材です。吸湿性、吸水性に優れ、シワもできるが復元力も高い、温かくもあり涼しくもある、そんな素材です。人毛と同様に湿度によってウールのキューティクルが開閉し、そのことで繊維内の湿度を調整することが可能です。
原材料の品質差が大きく、天然物であるがゆえに高価格となってしまうのが難点です。テニスの場面では最近はほぼ見ることはなくなってしまいました。
ふっくらとした風合い・光沢のある風合いなど様々な表現が可能、保温性、清涼感、吸湿性、吸水性、速乾性、高復元力、伸縮性が高い、環境負荷が低い
高価格、毛玉、静電気、洗濯の難易度
用途
スーツ、セーター、ニット、スポーツジャージ(混紡)、登山用ウェア、シャツ、コート、靴下、ネクタイ、毛布、ニット帽、カーペットなど
テニスウェアとして用いられる意図
テニスウェアとして、アクリルと同様に現在はあまり使われるケースはありません。チルデンセーターやベストなどのニット素材、ヴィンテージのボルグジャージには袖口・襟口にウールが贅沢に使用されていました。
化学繊維と違い、環境負荷が低いですし、温かく涼しいウール素材がもう少し見直されても良いと考えています。実際スポーツウェアにウール生地を!という流れが一部で存在するようですよ。
まとめ
あまり注目することはないであろう、テニスウェアの生地素材について紹介してきました。
現在はポリエステル素材を中心に展開されており、伸縮性が欲しければポリウレタン、光沢や軽さが欲しければナイロン、肌触りの心地よいリラックスのためにコットン素材が用いられます。
また、ウェアの機能性は素材だけでなく、その繊維形状、添加剤の種類、生地の織り密度・パターンなどによっても影響を受けます。同じポリエステル100%でも快適性・着心地は随分と異なります。
ウェアの素材と生地、ほんの少しでもそこに注目してみると意外と面白いと思います!