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【本当にオワコン!?】後編:「サーブアンドボレーヤー」の話を続けよう

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目次

the eye-catching image Photo by Lijian Zhang

前編より続くサーブアンドボレー談義です。

前編では私の大好きなサーブアンドボレーの魅力ばかりを語ってしまいましたが、後編ではサーブアンドボレーを取り巻く現実的な課題と可能性についてまとめます。

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サーブアンドボレーが衰退した理由

サーブアンドボレー衰退の理由として、道具の進化、コートの変化などがこれまで多くの人から指摘されています。しかし、決してそれはハード面の変化だけではありません。ソフト面や構造的な問題も大きいのです。

理由:ハード面の変化

ハード面の進化と変化

プロツアーにおけるスローサーフェス化

ラケットの素材・強度の進化

ポリエステルストリングの浸透と進化

ボールの変化・進化

かつてはグランドスラム4大会中3つがグラスコートだったことはご存知でしょうか。全米は1974年代まで、全豪は1987年まで実はグラスコートで開催されていました。また、現在のグラスコートシーズンはわずか3週間程度ですが、かつてはもっと長いグラスコートシリーズが展開されていたそうです。そしてあの伝統のウィンブルドンでさえ、芝種の変更によってスロー化されたとの情報があります。超高速コートのグラスが消えていったことは当然プロテニスに大きな影響を与えます。

Brycewhite / CC BY-SA (https://creativecommons.org/licenses/by-sa/4.0) かつて”芝”の全豪が開催されていたクーヨン・テニスクラブも現在では全豪と同じサーフェス『プレクシクッション』が採用されている

ハードコートの低速化も有名な話です。毎年最初に行われるインディアンウェルズマスターズ1000は『クレーコーター』でも勝てるハードとして有名で、2019年はティームがフェデラーを破って優勝したのは記憶に新しいと思います。

ラケットの素材・製法・精度は年々進化を続けています。軽さと強靭さの両立、高剛性でありながら振動吸収にも優れるラケットはフルスイングを可能にし、ベースラインから大きく下がった位置からでも破壊力のある攻撃ができるようになりました。

HSV25 / CC BY-SA (https://creativecommons.org/licenses/by-sa/3.0) これだけベースラインから下がって攻撃することはかつては困難だった

この進化したラケットに合わせてポリストリングでフルスイングすれば、スナップバックの効いた強烈なスピンボールを打つこともできます。道具(ラケット・ストリング)の進化によってベースラインでの攻撃力と強烈なスピンが達成され、サーブアンドボレーヤーの繊細なタッチとプレースメント、攻撃力が封じられるようになってきました。

理由:ソフト面の変化

サーブアンドボレーヤー育成の観点から言えば、現在は最悪の環境と言えます。その理由ですが、

ソフト面の進化と環境の悪化

ハード面の変化によって”サーブアンドボレーヤー”が激減

憧れのトッププロにサーブアンドボレーヤーが不在

サーブアンドボレーヤーである指導者が不在

強烈な両手バックハンドの浸透

スポーツの動機づけは誰かへの憧れから始まることがほとんど。サッカーで言えばロナウドに憧れてストライカーを目指すサッカー少年、野球ならイチローに憧れて走攻守優れたオールラウンダーを目指す野球少年など、「あの選手みたいになりたい!」という気持ちが大きなモチベーションにつながるのではないでしょうか。

かつては数多くいたトップのサーブアンドボレーヤーが、いまや皆無に等しくなり、当然サーブアンドボレーに憧れる少年たちは出てきません”最後のトップサーブアンドボレーヤー”であるパトリック・ラフターが引退して既に19年です。ラフターをリアルで知らないコーチもいますし、そもそもサーブアンドボレーの成功例が身近にないのですから、成功確率が低いスタイルをわざわざ積極的に教えようとは思わないはずです。

また、現在はトッププロだけでなく一般レベルにおいてもパワーのある両手バックハンドが席捲しています。かつてでは考えられないほど、両手バックハンドは正確でパワフルな攻撃力のあるショットに進化し、一般レベルでもバックハンドを苦手とする人が少なくなってきました。昔はサーブを相手のバックハンド側へ丁寧にコントロールしていれば、そこそこのサーブアンドボレーが出来ましたが、いまはバックハンドでもしっかりリターンされるようになったことを実感します。

サーブアンドボレーが復活する可能性

可能性がある、というよりは可能性を信じたい!という方が正確かも知れません。

いまやサーブアンドボレーヤーは非常に稀な存在となったため、サーブアンドボレーヤーと練習すること自体がなかなか困難です。ですので、まれに対戦すると普段とは違うプレイを強いられ、非常にやりにくさを感じるのではないでしょうか。しかしながら、単にやりにくいだけではトップに居続けることは出来ないでしょう。いずれは研究されてしまいますから。

さて、”こんな時代でも通用するサーブアンドボレー”のヒントとなる試合が、2017年全豪で繰り広げられました。

2017年全豪オープン4回戦 アンディ・マレーVSミーシャ・ズべレフ

Photo by Carine06

2017年全豪4回戦で、サーブアンドボレーヤーのミーシャ・ズベレフ(独)が、当時世界ランク1位・第1シードだったアンディ・マレーに勝利しました。ちなみにミーシャ・ズべレフとは、次世代トップ候補の一人であるアレクサンダー・ズべレフの兄です。

この試合のズベレフ兄は、ボレーの攻守を使い分け非常に落ち着いてサーブアンドボレーを展開しました。決めるボレーと相手に攻めさせないボレーを見事なまでに使いこなしました。リターンゲームでは焦らずに深いストロークを展開し、相手の逆をついてチャンスととらえるや迷わずネットに出て決める、このパターンが見事にはまりました。もちろん数多くマレーにパスで抜かれますが、めげずにスタイルを貫いたのも生粋のサーブアンドボレーヤーでした。

ズべレフ兄は決してビッグサーバーではありませんが、この試合では相手に読ませないサービスコースと緩急の使い方が素晴らしく機能しました。

しかしながら、マレーを破った次のフェデラーとの準々決勝では同様にはいかず、自分のサービスゲームでもフェデラーに先に展開される場面が多く、ズベレフのサービス力と展開力に不足を感じる形となりました。

ズべレフ兄が繰り広げたマレー、フェデラーとの2試合が、この時代に活きるサーブアンドボレーの在り方と課題を示してくれたように感じました。ズべレフ兄の成功例をベースに、プラスアルファが補完されれば、より完成系に近い現代版サービスアンドボレーになり得ると思うのです。

研究されても勝てるサーブアンドボレーヤーの条件

それでは、研究されてもなおトップに君臨できるサーブアンドボレーヤーになるためには、どんな条件が求められるでしょうか?

全豪でのズべレフ兄のケース以外に、もうひとつ好事例があります。かつて世界4位まで到達したサーブアンドボレーヤーであるティム・ヘンマン(英)です。サービス力と天才的なボレーに定評のあったヘンマンですが、キャリア後半にはサーブアンドボレーだけではなく、ストローク力にも磨きをかけオールラウンドな技術を高めました。それまでウィンブルドン以外でのグランドスラム大会ではなかなか結果が伴わなかったヘンマンが、スタイル改善後の2004年には全仏、全米でもはじめてベスト4の成績を収めることができました。

これらの事例も踏まえて、この時代に活躍できそうなサーブアンドボレーヤーの条件をまとめてみたいと思います。

の時代のサーブ&ボレーヤーに求められる才覚

  1. 絶対的なサービス力:スピード、球種、コースの打ち分けに長け、セカンドサービスの落差が少ない。例えるならフェデラー以上のサーブバリエーションを有し、サンプラスのセカンドサーブを超えるような予測不能さを持つこと
  2. 絶対的なスマッシュ力:上が強くないとサーブアンドボレーヤーの資格はない
  3. 豊富なボレーバリエーション:スライス、フラット、フラットドライブ、スピンなどのボレー球種によって攻守の使い分けが可能であること。マッケンローの低く滑るボレー、エドバーグのボレーコントロール、ジェイミー・マレーの攻撃的フラットドライブボレー、フェデラーのドライブボレーとハイバックスマッシュボレー、ラフターの予測力など
  4. コントロール重視のストローク力:深さ、コース、スピードの打ち分け、カウンターが得意であること
  5. ステイバック配分の工夫:ステイバックを十分に織り交ぜることで、相手に慣れと読みを生じにくくさせ、よりネットに出たときの緊張感を与える

現代テニスにおいては、ストローカーに有利な、特にハード面の要因が多いため、サーブアンドボレーヤーには相当の工夫が求められますし、ネットダッシュ一辺倒では通用しません。

絶対に必要な”サービス力とボレーバリエーションを持つ”ことを最低条件として、ステイバックやオールラウンドなパターンを十分配分することでサーブアンドボレーを際立たせる、そんな実力と勇気がある選手であれば、ひょっとするかも知れません!

さいごに

サーブアンドボレーのNo.1プレイヤーはいつかまた出てきてくれるでしょうか。もし出てきてくれたとしたら、恐らく完成系と言って間違いない、過去最高にレベルの高いサーブアンドボレーヤーであることは間違いありません。

古き良きサーブアンドボレーの時代を知っている世代としては、今の時代を席巻しているベースラインオールラウンダーたちを凌駕してくれる新世代のサーブアンドボレーヤーの出現を心から待ち望んでいます!

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