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サーブアンドボレーと聞いてどのようなイメージを持たれますか?
一般的には、時代遅れ、前世紀の遺物、絶滅危惧種などネガティブな表現をされてしまうことが多いように感じます。
最近ではベースライナー、オールラウンダーが戦術として時折使うことはあるものの、純粋なサーブアンドボレーヤーのトッププレイヤーは本当に絶滅してしまった状況です。
しかしながら、いまだに語り継がれるかつての名プレイヤーたちの中にサーブアンドボレーヤーが多いのも事実。何といってもサーブアンドボレーはとても魅力的なプレイスタイルなのです!
私は似たようなベースライナーが多い最近のプロテニス界は少々つまらないと感じています。もう一度サーブアンドボレーの復興を願い、過去を振り返りながらその魅力と可能性を語りたいと思います。
サーブアンドボレーの魅力
その魅力を一言で言ってしまうと”格好良い!”に尽きますが、実はメリットもかなり多いプレイスタイルです。
プレイ・展開としてのメリット
サーブアンドボレーを徹底するためには、まずサービス力の高さが必須条件です。サービス力があって初めてサーブアンドボレーは成り立ちます。
- リターナーへの強烈なプレッシャー=リターンの難易度上昇、ミスの誘発
- 相手の時間的余裕を奪う=ショット選択の判断力・選択肢を奪う
- アングルがつけやすい=ポイントを早く決められる
- サービスのアドバンテージが最も生かしやすいプレースタイル
- サービスに工夫が生まれる=サービス力のさらなる向上につながる
- 攻撃をし続けることができ主導権を握っている=心理的優位性
- 省エネルギー
リターナーは、相手のサーブが良ければ良いリターンを返し続けることが難しくなります。また、サーバーが必ずボレーに出てくるため良いリターンを打つ必要があり、常に緊張を強いられミスが起きやすくなります。
リターナーは時間的余裕がなくなり判断力が奪われます。テニスでは判断力が奪われた時に、ボールが飛んできた方向に返球される確率が増えます。また返球のコース・球種の選択肢が狭められるので、ボレーヤーはコースが読みやすくなり、次のポイントが決めやすくなります。
またサーブアンドボレーヤーはサーブ力が重要であり、そのプレイスタイルを徹底するために常にサービスのレベルアップに努めます。元々サービス力があったからそのプレイスタイルになった人だけでなく、そのプレイスタイルを追求するためにサービスのレベルアップが出来た人もいるのです。
ポイントが早く決まるサーブアンドボレーは省エネルギーにつながります。ただし前後の俊敏な動きで使う筋力は、ストローカーのそれとは種類が違うため、人によってはネットに出る方が疲れると感じる人もいるようです。
サーブアンドボレーというプレイスタイルは、主導権を握りやすく、ある意味相手をコントロールし、飲み込んでいくプレイスタイルと言えます。
華麗さと儚さ(はかなさ)が共存
見た目の芸術性もあり、テニスを”観る”楽しさを教えてくれるのがサーブアンドボレーです。観客としてみると、そのすばらしさは次のようなものに集約されるのではないでしょうか。
- ワクワクさせてくれる展開の早さとスリル
- 選手の運動能力の高さとセンスが素人目にも一目瞭然
- 軽やかな動き・ボレータッチなどの芸術性の高さ
- 鋭角・強烈なボレー・スマッシュなどのダイナミックさ
- 逃げ場のないプレイスタイルを徹底する選手の勇気
- 試合時間が比較的短いため観覧ハードルが低い
- 時に全くはまらず見事なまでに散ってしまうはかなさ
素人や子供が観たとしても、その攻撃力、芸術性、ダイナミックさは非常に分かりやすく、ワクワク感を与えてくれます。観る者の感情に訴えかけてくるプレイスタイルと言えるでしょう。また試合時間が無駄に長引かない点から、テニスを観覧する上でのハードルが低くなります。
私が初めてテニスに魅了されたのは、エドバーグの華麗なサーブアンドボレーと、タイプの違うベッカーの豪快なサーブアンドボレーを観てのことです。ボレーとパッシングショットの攻防、数本の内に決まるジリジリとした緊張感、テニス素人の中学生の感情は揺さぶられ、彼らのプレイは本当に光り輝いて見えました。
逆にサーブアンドボレーヤーの調子が悪いときや、相手のリターン・ストロークがすこぶるはまった時、はかなさを覚えさせるほど見事に散ってしまうことがあります。繊細な芸術家はとことんダメな時もある、しかしそんな人間味あふれる儚さや切なさすら魅力的に思わせられるのです。
美しく、勇気と夢と切なさを与えてくれるプレイスタイル、それがサーブアンドボレーだと思うのです。
往年のサーブアンドボレーヤー
私がリアルで見た範囲でも、ジョン・マッケンロー、パット・キャッシュ、ステファン・エドバーグ、ボリス・ベッカー、ミヒャエル・シュテュッヒ、ピート・サンプラス、リカルド・クライチェック、ゴラン・イバニセビッチ、パトリック・ラフターなど数々の名選手が思い浮かびます。
特にサーブアンドボレーでNo.1に上り詰めた選手たちをピックアップして紹介します。
ジョン・マッケンロー(米)
言わずと知れた伝説のサーブアンドボレーヤー”悪童マッケンロー”。1980年ボルグとのフルセットに及ぶウィンブルドン決勝は伝説の一戦となっています。1984年にはシングルスとダブルス両方で同時に世界ランク一位になり、この年には82勝3敗、勝率96.47%の記録を樹立しました。これは2005年のフェデラー、2015年のジョコビッチの無双時代を上回る史上最高成績です。グランドスラム通算シングルス7勝(ウィンブルドン3勝、全米4勝)、ダブルス9勝です。
その激しい気性とは裏腹に、天才的なボレータッチで観る者を魅了しました。写真の通り、若干セオリーから外れたような打ち方でも難なくボレー出来てしまう独自のセンスを持っていました。試合を観ると分かりますが、ストローク力にも定評があり、パッシングショットなどオールラウンドにこなす選手です。すべてのショットをコンチネンタルグリップで打てること、独特なキレのあるサービスは一般人には決して真似が出来ません。
ステファン・エドバーグ(スウェーデン)
マッケンローに続き、エドバーグもまたシングルスとダブルス両方で世界ランク一位になった名選手です。1985年19歳の時に、まだグラスコートで行われていた全豪オープンでグランドスラム初優勝、次年度にあたる1987年に連覇を果たしました。1988年にはウィンブルドンを初制覇、そこから3年連続でベッカーと決勝で対戦し、1990年にも2度目の優勝をしています。91年から全米も2連覇。1990年に世界ランク一位に、グランドスラム通算シングルス6勝(全豪2勝、ウィンブルドン2勝、全米2勝)、ダブルス3勝です。
流れるような美しいサーブアンドボレーと端正なマスクは、テニス小僧だけでなく多くの女性ファンも魅了しました。強靭な背筋力で反り返って打つスピンサーブ、コントロール抜群のボレー、芸術品と称されたシングルバックハンド、薄いグリップで打つフォアハンドは時に批評の的になっていましたが、攻撃力こそないもののパッシングのコントロール、トップスピンロブは非常に得意で、総合的に非常にバランスの良いサーブアンドボレーヤーでした。また、そのフェアプレイも高く評価され、現在ではATPのスポーツマンシップ賞にはステファン・エドバーグの名前が冠されています。
エドバーグが使用していたウィルソンプロスタッフミッド、アディダスのウェア、シューズは当時テニスコートに溢れていました。
ボリス・ベッカー (ドイツ)
エドバーグとのライバル関係でも有名なベッカーは、250kmに達するビッグサーブ=ブンブンサーブを武器にネット中心のプレースタイルで活躍しました。華麗というよりは豪快な鬼気迫るサーブアンドボレーで、時折見せるダイビングボレーがベッカーのシンボルでもありました。
1985年に17歳でノーシードからウィンブルドンを優勝し、翌年も連覇。17歳の最年少優勝記録は今でも破られていません。上述の通り、1988年から3年連続でエドバーグとウィンブルドン決勝で対戦。1989年はベッカーが勝利しています。91年は同胞のミヒャエル・シュティッヒに敗れますが4年連続の決勝進出は、ウィンブルドンとの相性の良さを表しています。
1991年には短期間だけ世界ランク一位になり、グランドスラム通算シングルス6勝(全豪2勝、ウィンブルドン3勝、全米1勝)の実績を残しています。
ピート・サンプラス(米)
1990年代を代表する伝説的プレイヤーであるサンプラスは、フェデラーが超えるまで、1位連続在位記録、通算在位記録、グランドスラム14勝の記録を樹立し、しばらくは破られることのない記録と考えられていました。
典型的なサーブアンドボレーヤーとは若干系統が違い、絶対的な自信を持っていたサービス力を生かしたオールラウンドなネットプレイヤーでした。若いころから何時間もサービスの練習をこなしていたという話もあり、単に速いだけでなく緩急も球種も変幻自在という、類いまれなる才能に恵まれたビッグサーバーであり、史上最高のセカンドサーブを持つ男とも評されていました。
ウィンブルドンになるとそのサーブ力は一段レベルアップし、他サーフェスの時以上にサーブアンドボレーを多用していたのが非常に印象的です。そのウィンブルドンでは1993年から1995年まで3連覇、1997年から2000年まで4連覇を果たし通算7勝と無類の強さを誇りました。全豪2勝、全米5勝と合わせて通算14勝。間違いなく、フェデラー以前に最も実績を残し、成功したプレイヤーでした。
パトリック・ラフター(豪)
1997年、24歳の時に全米オープンに優勝、翌年も連覇を果たしました。ピーク時のラフターのサーブアンドボレーは、華麗さと豪快さを持ち合わせた完成系サーブアンドボレーと言って差し支えない本格的なものでした。
時に美しく、時に激しく、非常に躍動感に満ち溢れた格好良さは、その端正なマスクも手伝ってテニスファンを魅了しました。どれだけ抜かれようともサーブアンドボレーを貫き、強さだけでなく時に儚さも持ち合わせた魅力あふれる選手だったと言えます。
1位在位期間はわずか1週ではありましたが、本格派サーブアンドボレーヤーとして十分すぎる存在感を示してくれました。28歳と早くに引退し、ピークのままに去ってしまった感がありますが、その去り方すらサーブアンドボレーヤーの生き様を表していたような気がしてなりません。
このラフターこそが、サーブアンドボレーヤー最後のNo.1プレイヤーなのです。ラフターが1位になった1999年以降の21年間、サーブアンドボレーヤーのNo.1は出てきていません…。
さて、これまで紹介した5人のプレイヤーには共通点が少なくとも3つあるのですが、何だか分かりますか? 答えは記事の終わりに記しますが、往年のテニスファンだったら簡単に分かってしまいますよね!
後編へ続く
サーブアンドボレーへの思いが強すぎて、想像以上に記事が長くなりました。
さて、続く後編では、サーブアンドボレーの栄枯盛衰の理由、その復活の可能性について踏み込んでいきたいと思います。
さて、上述の5選手の共通点についての答えです。
- グランドスラムを連覇している
- 片手バックハンダー
- 全仏で優勝できていない